台湾と日本の双方で仕事をしていますと、やはり一番気になる、というか気にしなければ行けないのは「為替レート」ではないかと思います。
貿易や多国間取引をしている企業にとっては、自社の業績云々に関係なく、為替レートの上げ下げだけで売上や利益がいわば「勝手に」左右される要因でもあります。
そうでない人たちにとっては、普段あまり為替レートなどは気にしない分野かもしれませんが、一般の人でも為替レートがメッチャ大事になる瞬間があります。
それは「海外旅行」。
2020年2月以降、2021年10月現在に至るまでは、海外旅行が自由にできない状況ですが、2022年以降は海外旅行がまた自由にできるようになる(ように願って)と、やはりチェックしておいたほうがよいポイントですね。
今回は、「日本円」対「ニュー台湾ドル(本文では略して「台湾ドル」と呼びます。)」の過去5年の推移を見ながら、台湾ドルがどのように動いているかを見たいと思います。
2016年の台湾ドル推移
上のグラフは2016年の台湾ドルの為替推移です(対日本円)。
■最安値:1台湾ドル=3.1166日本円
■最高値:1台湾ドル=3.7071日本円
■平均値:1台湾ドル=3.3701日本円
特徴的なのは、年初頭と年後半が台湾ドル高で、年の真ん中に台湾ドルが最安値を記録している「お椀型」のグラフ推移になっているところです。
直接の因果関係は不明ですが、2016年の初頭は台湾総統選挙で現職(2021年10月現在)の蔡英文氏が史上初の女性総統として当選を果たした時期です。
また、2016年後半は、アメリカ大統領選挙で、あのドナルド・トランプ氏が当選を果たした時期でもあります。
2017年の台湾ドル推移
上のグラフは2017年の台湾ドルの為替推移です(対日本円)。
■最安値:1台湾ドル=3.5642日本円
■最高値:1台湾ドル=3.7952日本円
■平均値:1台湾ドル=3.6851日本円
グラフ左端の日本円を示す数字に注目してください。2016年のグラフと数値が全然違っています。
そして平均値も2016年が1台湾ドル=3.3日本円台だったのに対して、2017年は1台湾ドル=3.6日本円台にまで上昇しています。
この年の台湾の主な出来事としては、
・「学生の五輪」とも呼ばれるユニバーシアード競技大会が台北で開催
・台北駅から桃園国際空港を結ぶMRTが完成
・鴻海がアメリカに一兆円の投資をして液晶パネル生産
・日本和牛の輸入がようやく解禁
などがありました。
2018年の台湾ドル推移
上のグラフは2018年の台湾ドルの為替推移です(対日本円)。
■最安値:1台湾ドル=3.5771日本円
■最高値:1台湾ドル=3.8381日本円
■平均値:1台湾ドル=3.6643日本円
2018年は、2017年と比べると最安値、最高値、平均値どれをとってもそれほど大きな変化は有りません。ただ、グラフを見てわかる特徴としては、2017年は乱高下を繰り返した年であるのに対し、2018年は年初が台湾ドル高、3月以降は若干台湾ドル安に推移し、そのままあまり乱高下せずに2019年に向かっている、という感じです。
この年の台湾の主な出来事
・日本企業進出ラッシュ、マツキヨなど初出店
・台湾の新会社法が施行
・花蓮で大地震、複数ビル倒壊
・統一地方選挙、与党民進党大敗、蔡英文氏党主席辞任へ
2019年の台湾ドル推移
上のグラフは2019年の台湾ドルの為替推移です(対日本円)。
■最安値:1台湾ドル=3.3497日本円
■最高値:1台湾ドル=3.6596日本円
■平均値:1台湾ドル=3.5276日本円
2017年、2018年は、と比べると、2019年は全体的に「台湾ドル安」傾向となりました。特に8月〜9月にかけては、1台湾ドル=3.3日本円台にまで下がり、2016年以来の安値となりました。その後年末に向けて再び上昇傾向に反転し、1台湾ドル=3.6日本円台にまで復調しています。
2019年は、台湾企業の中国大陸からの回帰が多くなり始めた年であり、内需が活況を見せ始めた年です。そして次世代通信「5G」の実用化を控え、電子・半導体の受注が増え始めたのも2019年です。
いわば、過去数年間で最大級の「台湾経済の盛り上がり」のスタートとなった年とも言えそうです。
2020年の台湾ドル推移
上のグラフは2020年の台湾ドルの為替推移です(対日本円)。
■最安値:1台湾ドル=3.4255日本円
■最高値:1台湾ドル=3.7201日本円
■平均値:1台湾ドル=3.6254日本円
2019年と比較すると、再び台湾ドルが復調しているのがわかります。2020年の平均値を見ても1台湾ドル=3.6日本円台に戻し、グラフをみても、3月初旬の急下落ポイントを除いては高値で安定した1年となっています。
2020年はなんと言っても、世界的に爆発した新型コロナウィルス感染です。
台湾は、いち早く感染拡大防止政策を実行し、世界トップレベルの感染防止に成功しました。
コロナ感染拡大の直前1月には、現職蔡英文氏が圧勝のうちに再戦を果たし、新型コロナウィルス感染防止の旗振り役として素早い行動をしたことがさらなる支持率の拡大に繋がりました。
また、世界に先駆けて感染防止に成功したことから、電子・半導体を中心とした受注が爆発的に増え、台湾の貿易・輸出高は毎月過去最高を更新する勢いでした。
2021年の台湾ドル推移(10月現在)
上のグラフは2021年10月までの台湾ドルの為替推移です(対日本円)。
■最安値:1台湾ドル=3.6329日本円
■最高値:1台湾ドル=4.0250日本円
■平均値:1台湾ドル=3.8829日本円
グラフを見ても一目瞭然ですが、直近過去5年間で、2021年が最も台湾ドルが高い水準で推移しています。最安値ですら、1台湾ドル=3.6日本円台、平均値でもなんと3.8日本円台と、かなりの台湾ドル高となっています。そしてついに、最高値は1台湾ドル=4.0日本円を突破しました。
2021年は、5月中旬から8月初頭頃まで、台湾国内における新型コロナウィルス感染拡大という非常事態が発生しましたが、これも数ヶ月以内に収束させるなど、官民一体となった対策が功を奏しています。
また、2020年から続く電子・半導体関連の好調ぶり、輸出高の記録更新など、台湾経済の好調ぶりが止まりません。
かたや日本においては、2020年の安倍首相退陣、1年の短命で終わった菅政権、新型コロナウィルス対策が目に見える効果を発揮しなかったことなど、オリパラ開催以外には明るいニュースのない状況が続きました。
このような双方の国における経済的背景を見ると、最近の日本円に対する台湾ドルの強さの理由がなんとなくわかってくるように思います。
もはや日本以上?台湾の物価
上のグラフは2016年〜2021年10月までの台湾ドル為替推移をひとまとめに記したグラフです。
2020年からグングンと上昇しているのがわかりますね。
一昔前、日本人が台湾を旅行する際、イメージとしては「台湾は物価が安くていいなぁ」というものでした。
しかし、このような為替を見ても分かる通り、今の日本人から見れば、もはや台湾は物価の安い国ではない、ということがわかるかと思います。
例えば、台湾旅行で1,000台湾ドルで買い物をしたとします。
10年前は「1台湾ドル=約3円」、と頭の中で計算していた旅行客が多かったと思います。
すると、日本円では約3,000円の消費、という計算。
しかし今は、「1台湾ドル=約4円」という計算をしなくてはなりません。
すると、日本円では約4,000円の消費、ということになります。
同じ「1,000台湾ドル」を消費しても、物理的には日本円だと1,000円も多く支払っているということになります。
来年以降、為替推移がどうなるかは注目が必要ですが、海外旅行が解禁された暁には、ぜひこの為替レートにも注意して旅行計画を立ててみてください。